【 由美  スピカ 】





  第五話


グラウンドのバックネット裏にベンチが2つ並んでいた、そこに見覚えのある男が座っていた。

「昭夫・・・?」

健はまさかと思ったが、公園の照明に照らされたあの小太りの男は昭夫に間違いなかった。

「あいつ先に帰ったんじゃ・・・、ははぁ、酔っぱらってここで休憩してるんだな」

そう思ったが昭夫の姿勢は至って普通だった。しかもどうやら誰かに電話をしているらしい。

「こっそり近づいて驚かしてやろう」

健は忍び足で近づくと、昭夫が急に立ち上がった。健は驚いて近くの茂みに隠れた。昭夫はこちらを見ない。ん?誰かに手を振っている。

健が昭夫の視線の先に目をやると、なんとさっき別れた由美が歩いて来るではないか!!

「!!!!!!!!!!」

健は自分の呼吸が止まるのを感じた。そして電気屋で由美を見たときと同じ感情が急速に全身に広がるのを感じた。

健はピクリとも動けなかった。15m先にいる、二人の男女に目が釘付けになってしまった。二人は何か話して、やがてベンチに腰をおろした。

健は頭が混乱していた。目の前の状況が判断できない。全身から汗が噴き出し、脇にシミを作っているのがわかる。心臓は音を立てて脈動し、口が渇いていくのも自覚できた。

二人の会話は聴き取れない。特に由美の声はまったく何を言っているのか聴き取れなかったが、時々昭夫が

「え!?」

「マジで!?」

と叫ぶのは聞えた。さっきの俺の告白を昭夫に話しているのか?

何分ぐらい経っただろうか、今にして思えば10分ぐらいだったと思う。そのときの健の時計は止まった様に長く感じられたし、記憶が無い程早かった様にも感じた。

健は自分の靴ひもがほどけている事に気付いた。さっき走ったからだ。二人にはこれ以上近づけない。健は急いで靴ひもを結び直そうとすると「ギィ」と木がきしむ音がした。

二人が席を立ったのだ。健に再び電流が流れる。一体これから何が起こ
るのか?

二人はゆっくりとベンチから離れるとグラウンドの方へ歩いて行く。一定の距離を保ちながら健も後を追う。

二人の距離は近くもなく遠くも無い。いつも仕事場で接している様な雰囲気である。特別な気配は全く感じられない。

しかし電気屋で見た男が由美の兄であって、彼氏ではないのなら、こんな状況で密会する男・・・。まさか昭夫だったなんて・・・。どうして俺じゃなくて昭夫なんだ。

自分に黙って男女の関係になっているなんて、どうしてなんだ。なんで俺に話してくれないんだ。とてつもない疎外感で涙があふれそうになりながら健は二人の後ろ姿を追った。

今日は金曜日。これからホテルに向かうのか?駅の裏はホテル街だ。まさかこんな事態になるなんて。俺は一体何をしているんだ・・・。

健はもはや自分の行動に制限が効かなくなっていた。由美の事を思いながら自慰行為に入っていた負の自分が脳内で急速に成長していく。

その感情が健の体を満たすのに時間はかからなかった。由美と昭夫に
はもはや恨みの感情すら薄まりつつあった。

とにかく興奮していた。歩きながら股間がキツくなっているのがわかった。おそらく下着は半立ちになったペニスからあふれる粘液でベトついていることだろう。

今までに昭夫と由美が二人でいる光景を見て興奮したことは一度も無い。三人は仲間だったのであるから当然だった。

しかし今はどうだ?自分よりも男としての魅力に欠けると密かに見下していた男が、自分に告白までさせた魅力的な女と深夜の公園を歩いている。



 つづく

      

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