【 SM ごっこ 二次元世界の調教師 】

第二話
「ああ、そうだな。驚いたよ。やれば出来るんじゃないか」
「ぼ、僕、めぐ姉が何でもしてくれると思って、必死で勉強したから」
う。
翔がそう言った時私の方をじっと見つめた視線に妙な気配を感じた私は、なぜかドキッとしてしまった。何の取り柄もない翔だけど、中学に入った頃から背がニョキニョキと伸びて、今では私の方が見下ろされるようなノッポである。やせぎすなのは変わりないが、顔立ちは美形と言っても良い。
ちょっとナヨナヨしてるが、女の子にしたらいいくらいの整った外見なのだ。親からよく、翔と恵美は反対だったら良かったのに、と言われるのだが、男勝りで無骨な私より悔しいけどよっぽどキレイだと思う。
「何が欲しいんだ、言って見ろ!」
そんな翔が妙に粘っこい視線を送って来たような気がして、私は妙な胸騒ぎを覚え、あえて怒鳴るような大声でそう言っていた。しかすると翔は、私が考えていたような事じゃなくて、とんでもない要求をしてくるつもりなのだろうか?そして、その胸騒ぎは正しく、翔は信じられない言葉を口にしたのだった。
「あのさ、絶対に怒らないと約束して欲しいんだけど……」
「ああ、約束してやる。欲しいものを何でも言え」
「いや、別に欲しい物があるわけじゃなくて……」
相変わらず煮え切らないヤツだ。
「いいから言え!」
「あのさ、めぐ姉、えすえむって知ってる?」
「何いっっ!!」
「うがあっっっ!!!」
しまった。つい蹴りを入れてしまった。それも手加減せずに思い切り。咄嗟の事で金蹴りではなかったのが不幸中の幸いと言えたが、モロに下肢に蹴りが入ってしまった翔は、もんどり打って倒れるとその痛さにシクシク泣いていた。
「し、翔、大丈夫か? 骨折してないか、立ってみろ」
情けないヤツだなと思いながら、私は思わず翔に駆け寄り、本気で心配して言った。が、実際には翔はちゃんと立つ事が出来たし、ケガをさせたわけではない事がわかって私は少し安心した。
「ひどいよ、めぐ姉……」
「ああ、悪かった、謝るよ、マジで。だけど、お前とんでもない事言っただろ?」
「絶対に怒らないって約束したじゃないか!こんなんなら僕、毎晩徹夜なんかするんじゃなかったよ……」
う〜ん、私より遅くまで勉強してるなとは思ったが、そこまで必死だったとは思いもしなかった。私はついこの出来の悪い弟に同情してしまいそうになったが、やはり物事には節度と言うものがある。何でもいいと言ったって、「SM」なんて絶対に口にすべき言葉ではない。
「あのな、翔、お前SMって言ったよな」
「うん……」
「何でもいいっつったってさ……」
「知ってるかって聞いただけだよ!」
確かに翔の言い分の方に分がある。私も頭に血が上って突発的に危険な行動を取った事を反省しなければいけない。私は努めて平静になろうとしながら慎重にしゃべった。
「ああ、知ってるよ、SMくらい」
「ぼ、僕SMにとても興味があるんだ」
「そうだな。あんな雑誌、まだ持ってんのか?」
「お金がないから……たくさんは持ってない」
うへえ、こいつ、もしかしてSM雑誌を買う金が欲しいのか?いや、物が欲しいわけじゃないと言ってたけど……
私が「あんな雑誌」と言ったのには理由がある。翔が中1で、私が中2、ちょうど今から3年前の同じくらいの時期に、私は翔が「あんな雑誌」を見てえっちな事をしてる現場を見てしまったのだ。
ちょうど時刻もほぼ同じ、学校から帰って親の帰りを待っている頃。先に帰宅して自室にこもっていた翔の部屋に、驚かせてやろうと気配を殺してそっと入ってみたら、正にその現場に遭遇したと言うわけだ。
とんでもない雑誌を見ながら何か変な行為に耽っていた翔は、ものすごく驚いてとてもバツが悪そうだったが、もっと驚いたのは私の方だった。女子の方が成長が早いらしいが、その時私自身は指でえっちな悪戯をする事を覚えていた。
でも翔は1つ下だし、その頃は本当に精通も来てなさそうなちっちゃなガキだとばかり思っていたのだ。そして普通のヌード雑誌くらいならまだ良かったが、「あんな雑誌」は中2の私にとってはとても衝撃的だった。
翔の手前、そんなそぶりは見せなかったけど、チラリと垣間見たハダカの女性が縄で縛られてるグラビアに、私は内心ドキドキで異常な興奮を覚えてしまったのを思い出す。それにその決定的な瞬間を、翔がおちんちんを取り出して弄ってる場面そのものも、当分脳裏に焼き付いて離れなかったくらいの衝撃と共に、私は目撃してしまったのだ。
それから私は、翔にズボンを直させ正座させると、厳しく叱りつけた。それは本心からの叱責で、勉強もしないでそんな雑誌を見て良からぬ行為に耽る弟が、私は本心から道を踏み外し悪の道へと踏み込もうとしているかのように感じていた。
ぐに取り上げた雑誌は、親にバレないように私がどこかで捨てる事とし、今度こんな事があったら親に言い付けると、翔に言った。全くあの時後先考えずすぐ親に言いつけたりしなくて良かったと思う。興奮してまともに働かない頭でも、そんな事をすれば翔のプライドを決定的に傷付けてしまう事が本能的にわかったのだろう。私達は本当に仲の良い姉弟なのだ。
「あのな、翔。なんでもやるって言った約束は守る。でもそれで俺のお前を見る目が変わるかも知れない事は考えろ。いかがわしい事をしたら一生軽蔑してやる。俺は絶対にお前を許さないからな」
もううすうす翔が「いかがわしい事」を望んでいる事を察した私はそう牽制球を投げた。まさか本当の意味で「いかがわしい事」を翔が考えているとは思いもしなかったが。
「そんないかがわしい事をするわけないだろう。僕はめぐ姉とSMのまね事をしたいんだ。本物じゃない、ままごとみたいな、SMごっこだよ」
ーーやっぱりそうか
あの中学の出来事を思い出した私は、同時に裸女が縄掛けされた写真も蘇って、翔の言う「SMごっこ」がどの程度のものなのかと思い、冷静にと心掛けていた気持ちがどんどん高揚してしまうのを感じていた。
「簡単な事だよ。僕と一緒にめぐ姉の言ってた甘味処に行って食べて帰る。ただし、スカートをいつもより短くするんだ、そうじゃないとSMごっこにもならないから」
つづく